模型の仕事を2件受注した。正確には1件は1台だが、もう1件は2台違う物を作るので、合計3台製作する。このうち最初の1台はすでに模型会社に発注済みなので私は本製作には関わらない。ただし各部の確認をクライアントと事前にCGで行うので作業は結構ある。もう1件の2台は概ね受注したがまだ仕様が固まっていない状態。そこでまずは仕様を確定するために、模型の模型を作ってクライアントの確認を取ることになった。クライアントと言っても相手は会社なので意思決定は一人や二人ではない。こうした事前作業でコンセンサスを得ておくことは大変重要なのである。だから手間を惜しまずせっせと作業する。また以前も書いたが模型は控えめに言ってもあまり儲からない。だが、スケッチや模型のようなアナログな作業はMacの作業が多い中で気分転換にもよいのである。
スケッチを描いているところ、A3のライトテーブルを使う
さて、試作模型は発泡スチロールを使う。正確にはスチレンペーパーという材料で材質は発泡スチロールと同じポリスチレンだが、均質で薄い板状の材料である。模型を作る人なら100%知っている材料でもある。カッターナイフで簡単に切ることができる。厚さは1mmから5mmくらいまでをよく使う。それ以上厚いのもあるだろうがそうなるとスタイロフォームを使うことが多いので、まあ5mmくらいまでだろう。
このスチレンペーパーは類似商品にスチレンボードというものもある。これはスチレンペーパーの両面に紙が貼ってあるもので、スチレンペーパより丈夫である。模型づくりにも使うことがあるが、紙が湿度によって伸びたり縮んだりするのでかなり反る。だから私は使わない。そもそも私がスチレンペーパーを使って作るのは試作品なので丈夫さは必要ない。紙を貼ってわずかに強度を上げるより、製作しやすさが第一だからである。
そして本番の製作では通常アクリル板を使う。アクリルは加工はたいへんだが強度的にすぐれ仕上がりも美しい。それに比べ試作は大きさと雰囲気の確認用なので強度も美しさも必要ない。
それにしても紙なしがスチレンペーパーで紙ありがスチレンボードというのもわかりにくいネーミングである。画材屋の店員も勘違いしていることが多い。画材屋で購入する際は、自分で見て買うから間違えることはないが通販は名称だけでなく仕様を確かめないと危険である。
また通販で扱っているものはサイズが小さい。B4サイズにカットして4枚とか5枚一袋になっている。そのサイズで間に合えば良いが、もっと大きなサイズが欲しいときは、やはり画材屋に買いに行くしかない。画材屋では基本A1サイズを買うことができる。大きいので買うときは1枚なんてことはあり得ない。ふにゃふにゃなので家に着く前に折れてしまう。だから最低でも10枚以上まとめて買う。そうすれば折れる心配はかなり減る。今回も1mm、2mm、3mm、5mmと4種類を5枚、全部で20枚ほど買った。値段は厚さであまり変わらずだいたい1枚700円〜800円くらいなので20枚も買うとそれなりに費用がかかる。
画材屋さんで買ってきたスチレンペーパー
買って帰ったスチレンペーパーは保存場所にも気を使う。ダンボールに入れおくのが一番良い。アルミパネルなどが入っていたA1サイズの箱があればそれを使うのがよい。ただし、A1サイズは切り出すときに大きな作業テーブルが必要なので、何枚かを半分のA2サイズにカットしておく。こうすれば作業スペースでハンドリングできるので。
とりあえずそれぞれ数枚づつA2サイズにカットする
では、製作にかかる。接着はスチノリという接着剤を使う。試作模型なのでスピードが大切なので瞬間接着剤を使いたいところだが瞬間接着剤はスチロール樹脂には使えない、溶かしてしまうしそもそもくっつかない。そこでスチノリを使うのだが固まるのに少し時間がかかるのでマスキングテープで留めたり、軽く重しをしながら少しずつ組み立てる。急いで作業するとうまくいかない。気長に時間に余裕を見て製作する。つまりある程度貼ったら固まるまでMacで別の仕事をして、また組み立てて・・・のくり返しとなる。
製作中の模型の模型
さて、では製作にかかろう。
製作の前には、前回(・・・リセットしてから次にかかろう)に書いたが、作業机をリセットする。つまり前の作業のもの、スケッチの道具やら何やらはすべて片付けて作業机の上は「何もなし」にしてからはじめる。
模型製作の途中でまたスケッチを描く必要があったら、今度は模型の材料や道具を全て一旦片付ける。組立て中の模型は棚の空きスペースに避難、作業机の上をキレイに片付け、布巾で拭いてからはじめる。決して、ちょっとだからと机の端に寄せて空きスペースを作ってそこで・・・というのはダメである。なんのかんので片付けた方が確実に早く、そして気持ちよく仕事ができる。これは長年の経験で断言できる。
今日は模型を作りながら久しぶりに古い古い録音のイタリアオペラを聴いた。エンリコ・カルーソーである。カルーソーが亡くなったのが1921年なので、録音は当然それ以前である。つまり蝋管方式ラッパ吹き込みである。だがそれがかえって味であり、たまに聞くと楽しいのである。模型作りにもよく合う。
少し前の映画でクラウス・キンスキー主演の「フィッツカラルド」というドイツ映画があった。主人公フィッツカラルドは南米ペルーのイキトスという実在の街にオペラハウスを建てることを夢見て未開のゴム林に船で目指すというもので、航行不能な川を越えるため船で山を越すというとんでもない話である。実際に撮影でも船の山越えを行い、あまりの過酷な撮影に主演をはじめキャストが途中で何度も入れ替わり撮影し直したらしい。その中で主演のクラウス・キンスキー演じるフィッツカラルドはカルーソーにあこがれ、カルーソを蓄音機でかけながら川を進むのが印象的だった。曲はヴェルディのリゴレット第3幕「美しき愛らしい娘よ」やマスネのマノンの「夢の歌」などがとてもよいのである。大好きな映画である。
また、ロシア映画で「草原の実験」というのががあった。この映画で主人公の美少女がお父さんのトラックのエンジンで発電して家でラジオを聞くシーンがある。確か映画の最初の方。ここでラジオでかかっていたのも蝋管方式の録音のイタリアオペラだった。ただしカルーソーではなくベニャミノ・ジーリだと思う。ジーリも亡くなったのが1935年なのでカルーソーと録音はあまり変わらない。この歌手もいい。だがカルーソーと比べるとやや劣るかな、まあこれは仕方がない。
カルーソーとジーリのCD
写真にあるカルーソーのCDは11枚組、ジーリは7枚組。これらを連続して全曲聴く、なんてことはあり得ないが、いくつかピックアップしたプレイリストを聴きながら模型を作るのはなんとなく楽しいものである。
ちなみに「草原の実験」で少女が聴いていたのはレオンカヴァロ作曲の「道化師(パグリアッチ)」の「おお、コロンビーナ」だった。いい曲である。
この曲は、同じくイタリア ヴェリズモ(現実主義)の作曲家マスカーニの「カヴァレリア・ルスティカーナ」とほぼ同じ時期の作品である。たしか1890年頃の初演。少し「カヴァレリア・ルスティカーナ」の方が早い。
そしてこの2つのオペラ、「道化師」と「カヴァレリア・ルスティカーナ」はともに通常のオペラに比べかなり短いので、2曲合わせてDVDになることが多い。私もDVDを何枚か持っている。だが模型を作りながら映像を見るわけにはいかないので、今日は音だけ、カルーソーとジーリである。
ちなみに「道化師」は単純なストーリーだが妙にわかりにくいのが特徴で、劇中劇という体裁を取っているので、登場人物と、その人が劇中劇で演じる役があり、しかも現実と劇中劇で人物を変え同じようなストーリーが展開するので、ぼーっとしていると「あれ??」となる。
あらすじは、
主人公カニオ(劇中劇ではパリアッチ)は移動劇団の座長で、奥さんネッダ(劇中劇ではコロンビーナ)も同じ劇団の団員。劇団にはほかに二人、トニオ(劇中劇ではタッデーオ)とベッペ(アルレッキーノ)。その他に村(興行地)の青年シルヴィオである。劇中劇のストーリーはパリアッチ(座長のカニオ)は道化師(パグリアッチ)でその奥さんのネッダ演じるコロンビーナは座長の目を盗みベッペ演じるアルレッキーノとできているというものだが、劇の外、現実世界では座長の奥さんネッダは村人(青年)シルヴィオとできている。劇が始まる前に、つまりリアルな世界の方で、ネッダとシルヴィオの話すのを盗み聞きしてその関係を知った座長のカニオは悲しみに暮れながらも、その感情を隠して人を笑わせる道化師の悲しみを歌う。「パリアッチはパグリアッチなので悲しくても皆のために歌う〜♪」。そして、劇中劇が始まると劇の中で、アルレッキーノとコロンビーナがいい仲で、劇のセリフまでさっきのネッダとシルヴィオの会話と同じなので、トニオはついに頭が混乱し舞台で劇を忘れて、奥さんに詰め寄る。それを劇のストーリーだと思った客は喜んで見ているが、やがて実際に奥さんを刺し殺し、お客はパニック、観客として見ていたシルヴィオは助けに駆け寄ったものの同じく刺される。そこで座長は我に返り「芝居はおしまいです」と言って幕。
カニオは「捨てられていたおまえをここまで大事に育てたのはオレなのに〜♪」みたいな歌を歌いネッダを殺す。こういう男と女の関係はずっと変わらない事件のテーマである。さんざん貢いでオレの人生はお前のために・・・みたいな男が女に手をかけるのは今でもよくある。女に一方的に入れ込んでその気になっている阿呆はこのオペラを見た方がよいというものだ。男は手段が「貢ぐ」で目的は「女」だが、女は手段が「男」で目的は別にある。うまくいく訳がないのである。女にとって手段は大切なので「あなたは私にとって大切」かもしれないが、決して目的ではない。オペラ道化師より単純明快で分かりやすい。だからわからない男は阿呆なのである。
ちなみに「草原の実験」の曲「おお、コロンビーナ」は劇中劇で奥さんとできている役の団員ベッペ(アルレッキーノ)が「奥さんを愛している〜♪」と歌う歌」。いい曲だが主役が歌う歌ではないのである。だからだろうカルーソーのCDにこの曲はない。カルーソーは主役の座長役だからである。でもジーリのCDにはこの曲がある。おそらくジーリが主役級ではないというのではなく、単にいい曲なので歌いましょ、と。カルーソーの時代のストイックさはないのである、ジーリのCDは他の選曲も割と自由に歌いたい曲を単にピックアップして歌っている感がある。ワーグナーやヘンデルの曲まで入っているのがその例である。カルーソーの時代はオペラの一部の良いところをレコード(と言っても蝋管)にしたのだろうが、ジーリの時代には市民権を得たレコードが、レコードはレコードとしてエンターテインメントとして違うスタイル、つまりいい曲をお茶の間でどうそ、に変わったからだろう。