デザインの仕事では色はとても重要な要素だ。
クライアントから色の指示が出ることもある。大抵はこんな色で、と大雑把な指示が多い。私はそれをモニターでチェックしながら実際の色に置き換えていく。もちろん1から自分で決めて提案することもある、むしろその方が多い。
ここで言う実際の色とは「塗料」や「プリントの指定色」のことである。
プリントの指定色はコンピューターのソフトできちんと色管理をし、印刷屋さんに渡せば良い。もちろんそう簡単ではないが、ここでは省く。
今日の話は塗料の色の方。塗料の色は限りある塗料の標準色から指定する必要がある。そしてこの標準色は国によって異なる。国と言っても、主に日本とアメリカとヨーロッパの3地域だ。その他は知らない。
日本は日本塗料工業会、通称「日塗工」の色見本帳から選ぶ。写真の左下の3冊。3種類別のものがあるのではなく同じものが3つ。正確にはその年によって微妙に異なる。また大きめのものは色は同じだが1色1ページでミシン目が入っていてカラースキームづくりに利用できる。
アメリカはパントーンが標準だ。写真右下の2冊。こちらは2冊で1セット。
ヨーロッパはRALが標準、写真右上の2冊。これも2種類別のもの。
さて、このうち色数が最も少ないのは日塗工なので、場合によってはもっと別の色見本を参考にすることがある。たとえばDIC色見本(写真左上の2段の箱)など。だが塗装屋さんはDICは勘弁してください、というところがほとんどなので、そうなると日塗工で苦労して選ぶことになる。
特に遊園地のデザインの場合はパステルカラーの利用がとても多い。ピンクや紫色など。だがこれらの色は他ではほとんど使わない。だから色数が少ない日塗工ではとても苦労する。それに、なるべく近い色を決めてポンッおしまい、のような単純な色決めもできない。どういうことかというと、カラーデザインは単色ではなく色の組合せなので隣の色との対比がとても大切だから。例えばライトブルーとベージュの組合せがあったとする。それぞれRALで色が指定されているが、これを日塗工に置き換えなけれならないとしよう。ライトブルーもベージュもそれぞれ近似色で日塗工に置き換えるのはそれほど難しくはない。だがそうやってできあがった色の組合せがどうもしっくりこないというのはよくある。そこでライトブルーは変えずにベージュを別の色に変えてみる。あまりオリジナルから離れてしまってはダメだ。色見本帳との睨めっこが始まる。ベージュを変えずにライトブルーを変えるのはどうか、両方とも変えたらどうか、と睨めっこが続くのである。
その点でもパントーンやRALは色数が多く、日塗工よりはるかに優れているように感じる。少しうらやましい。
日本は何を作るときも決めるときも、ギリギリ、悪く言うと「ちまちま」作るのが好きだ。
道路も鉄道も、オフィスも住宅も冷蔵庫も何もかも。それで社会や生活が変わって容量や速度や幅を増やす必要が生じたとしても、そのちまちま規格の中でなんとか対応しようと、ものすごく苦労する。少しゆとりで作っておけば簡単に対応できるのに、それができないので、ここをこうやってあそこをああやってと「ちまちま」対応する。労力はすごくかかるが、予算は「ちまちま」なので、わずかなお金ですごく苦労する人が出てくる。
日塗工は最低限の色だけ決めて、その中でなんとかやりくりしようとする「日本の性格」が良く表れた例と思う。だからしょっちゅう改訂する。なんと毎年少しずつ色が変わる。よせばいいのに、と思う。色が変わるのにはもう一つ理由がある。この色見本を作っているのは社団法人で、社団法人というのは会員企業の会費と国や地方公共団体からの委託業務、それに出版物などの販売で運営している。つまりお金があまりない。だから色見本帳をちょこちょこ変えて少しでも売り上げを増やすしか生きていく方法がないのだと思う。以前、私も社団法人に会員として属していたことがあったが、財団などにくらべ、お話しにならないくらいお金がなかった。すべてが「ちまちま」になるのに十分な土壌ができている。
アメリカのパントーンやヨーロッパのRALはあまり頻繁に色が変わる印象はない。RALなんてベーシックは日塗工と同じくらいの色数だったと思うが、イイ色が多い。それだけでもうらやましい。RALにはベーシックのKの他にDがあってトータルの色数は多い。
ちなみに日本のデザイナーである私がパントーンやRALを持っているのは、製造するメーカーがアメリカやヨーロッパの場合は日塗工での指定はできないから、当然だね。
アメリカのメーカーに色指定をするときはパントーンで、ヨーロッパならRALとなる。だから色見本帳は全部必要になる。
色見本帳は結構値段も高いが必需品なのでしかたがない。
ちなみにこの中で一番高いのはRALのD2で3万5千円くらい。RALはよく使うK7は3千円。私は持っていないがミシン目の入ったK5というのもある。
パントーンは2冊で2万5千円くらい。
我らが日塗工は標準的なカラーサンプルが3千円、ミシン目入りの大きいのが1万円ちょっとかな。あとDICは1箱1万5千円が2箱、その他に私は持っていないが伝統色シリーズがいくつかある。
時々クライアントからRALの00は日塗工だとどれが近い?みたいな問い合わせもある。
もう少し日塗工の色数があったらいいのに、と思うことが多い。
色見本帳にはこれら塗料の色見本の他に、デザインで使うものには、紙の色見本、塩ビやアクリルなどプラスチックの色見本、カラーシートの色見本等がある。また特定メーカーの商品の色見本というのもある。
ペーパーレス化でカタログや仕様書などの書類は電子化されパソコンの中やネットで調べることができても、カラーサンプルはそういう訳にはいかないものが多い。