2021年6月6日日曜日

オッフェンバック「ホフマン物語」



「ホフマン物語」は作曲家オッフェンバックが作曲したオペラで、オッフェンバックが1880年に死去したため未完となったが、草稿ををもとに補完され1881年に上演された。

オッフェンバックといえば最も有名なのは「天国と地獄」だろう。この曲を知らない人はいない、運動会で何度も何度も流れる曲だ。

オッフェンバックは、オペラより、オペレッタやオペラ・コミックを得意とした作曲家だったので、ヒットはしたが文化人の評価は低い作曲家だった。

だがこのホフマン物語は4幕の正式なオペラだ。
あらすじは、青年ホフマンが酒場で仲間に自分の恋物語を語って聞かせることことから始まる。

プロローグ:歌劇場の隣の酒場で

第1幕、オランピア:魔法のめがねをかけさせられたホフマンは、機械人形のオランピアを人間の美少女と思い込み恋に落ちるが、最後に人形が壊れ、恋破れる。

第2幕、ジュリエッタ:娼婦ジュリエッタは彼女の恋人にホフマンの影を盗むようそそのかされる。娼婦相手に本気になるものかと言っていたホフマンだが最後はメロメロ、まんまと影を盗られ、笑われ、恋破れる。

第3幕、アントニア:歌の上手なアントニアは、有名な歌手だった亡き母と同じ胸の病で歌を止められている。ホフマンはアントニアと婚約する。だがアントニアは悪い医者と母の亡霊にそそのかされて禁じられていた歌を狂ったように歌い死んでしまい、恋破れる。

エピローグ:再び最初の酒場、語り終わったホフマンは今にも死にそうだ。そこに隣の劇場からやってきたバレエのプリマを見て、彼女に過去の恋人達を重ね見ながら倒れるが、詩人として蘇る。幕。

原作は、作家E.T.A.ホフマンの短編集。岩波のホフマン短編集には3つの話のうち2つが入っている。オランピアの原作が「砂男」、アントニアの原作が「クレスペル顧問官」だ。





そのうち「砂男」はホフマン物語だけでなく、ドリーブのバレエ「コッペリア」の原作でもある。

なのでこの3つ、原作である「砂男」、ホフマン物語「オランピア」、バレエ「コッペリア」比べながら楽しむのもよい。

あまり詳しく書くと楽しみが台無しなので書かないが、結末がどれも違う。コッペリアはバレエなのでストーリーがシンプルなハッピーエンドだ。ホフマン物語は前述の通り失恋で終わる。では原作の「砂男」は?これは文学なのでバレエやオペラよりやや複雑だ。そして文学ならではおもしろさがある。

さて、ホフマン物語のDVDにつては、1951年の映画版があり、これが良くできているのでおすすめだ。だが何しろ古いので画質も音もあまり良くない。最近レストアされたブルーレイが発売されたので、見るならブルーレイの方が良い。古いDVDは4:3で両側がカットされているので。しかしブルーレイも音も画質もある程度は改善されているが、エンジニアリングがヘボであまり期待するとがっかりする。ちょっと残念だ。

さて、そんな訳で満点とは言えないがこのレストア版のホフマン物語だが映画版なので、オペラ好きには少々物足りないかもしれないが、観て損はない。

たとえばオランピアの歌のシーンは、オペラではひどいものが多いのだがこの映画では素晴らしい。機械人形であるオランピアが歌いながら踊るシーンだ。

ホフマンは魔法のめがねをかけているので、人形が人間の美少女に見える。だがまわりの人には美しい人形にしか見えていない。ここをどう演出するか?

まわりの人間のひとりとして見れば、ホフマンを笑う立場だ。

めがねをかけて心を奪われているホフマンに感情移入して見るならオランピアは理想の女性だ。どちらを取るか?

少し考えれば小学生でもわかりそうだ。だが数あるオペラの演出はなぜか前者ばかりなのだ。

中にはわざと寄り目にして壊れかけた人形のように歌うものもあるくらいだ。

いったいどうしてそうなるのか、いくら考えてもさっぱりわからない。四谷シモンのように人形を愛せ、とまでは言わないが、あれはひどすぎる。

その点、マイケル・パウエル制作のこの1951年の映画は実に素晴らしい。この映画ではオリンピアを当代きってのバレリーナであったモイラ・シアラーに踊らせ、吹き替えの歌手をソプラノ歌手が歌っている。

そしてこのモイラ・シアラーの踊りが素晴らしいのだ。これならホフマンでなくとも恋に落ちる。モイラ・シアラーとマイケル・パウエルは本作の数年前に映画「赤い靴」を制作している。アンデルセンの「赤い靴」だ。興行的には「赤い靴」の方がヒットしたが、私は「ホフマン物語」の方に惹かれる。

赤い靴が普通の映画であるのに対し、ホフマン物語は幻想劇だ。ステージではないが舞台で演じられている。オペラに近い。モイラ・シアラーも赤い靴ではしゃべるものだから二流女優になってしまう。だが人形に徹しているシアラーは凜としていい。

なのでイチオシはこれ。

映画ではなく舞台公演のDVDであれば、おすすめは1981年イギリスロイヤルオペラハウスの公演。ホフマンにドミンゴ、完璧だ。他の歌手も多くが良い。

また、セットがすごい。それだけでも観る価値があるくらいすごいセットだ。ただし81年なので画質はまあまあだ。そこは仕方がないところ。




左:モイラ・シアラーのオランピアのBlu-ray
右:ドミンゴのホフマンのDVD

最後に

オペラは舞台公演なので、当然だが観客は客席から観る。だがDVDや最近はBlu-rayが多く出ているので、これらは当然歌手のアップのシーンを多く取り入れる。

それはそれで新しい楽しみ方として良いのだが、反面、舞台メイクの歌手が不自然に見えるものも少なくない。このDVDでもドミンゴは青年ホフマンを演じるには少々歳だし、オランピアもアップはかなり辛い。だが2人とも歌はうまい。

実際の公演で観客席から見るアングルでは違和感はそれほどないだろう。だがアップの連続のDVDでは所々違和感を感じる。

どうなんだろう、カメラをほとんど観客席のS席最後列あたりからの定点を基本として、ところどころアップを入れるような、そんな基本方針で編集するのもありではなかろうか。もちろん全てのオペラをそうすべき、などとは思わない。ネトレブコの清教徒なんてアップのネトレブコがすごくキレイだし、これを定点にしたらもったいないのは百も承知だ。だが作品によっては客席からの視点で通した方が、楽しめるものも結構多いようにも思う。