2021年8月20日金曜日

ヴェンダース「都会のアリス」、ヘルツォーク「フィッツカラルド」

ヴィム・ヴェンダーズの映画で有名なのはパリ・テキサスとベルリン・天使の詩だろう。それにしても「天使の詩」とはね。いったいこの恥ずかしい邦題をつけたの誰?。あんまり恥ずかしいので、ここでは原題の「ベルリンの空」で通すことにする。

さてこの2編はたしかに名作映画だ。

パリ・テキサスはライ・クーダーの音楽とカサカサに乾いた空気、そしてあのやるせないストーリーと。全てがパリ・テキサスというあの映画のための最高の組合せだ。あとジョン・ルーリーのいるいかがわしい店で振り返るナスターシャ・キンスキーは間違いなく彼女の最高の瞬間だ。同じくベルリンの空にもあの映画独特の世界があり、ソルヴェイク・ドマルタンもすごくいい。

だが、個人的にヴェンダースで一番好きな映画は?と聞かれたら、「都会のアリス」だ。

パリ・テキサスやベルリンの空が80年代の作品であるのに対し、都会のアリスは74年の映画。画質からしておそらく16ミリの作品。

だが、古いモノレールのウッパータルの風景など、16ミリの味がすごくよいので、35ミリを使わなくて正解だったように思う。

この映画、実に素晴らしい映画なのだが、日本でのDVDやBlu-rayはなぜか廃番だったり法外なプレミア価格がついたりとひどいことになっている。本当に残念だ。

そこでやむなく輸入盤のBlu-rayを買ったのだが、これがなかなか良かった。
ヴェンダースのロードムービー3部作3枚組のBlu-ray、写真のきれいなブックレット付きで9000円。国内盤はAmazonで都会のアリス単体のDVDが1万5千円。もう少しなんとかならないのかね。

輸入盤の欠点は日本語字幕がないこと。だが音声はドイツ語だが英語字幕はあるので、まあ何とかなる。なので多少英語がわかればお買い得だ。



ヴェンダースの70年代ロードムービー3部作のBlu-ray、Amazonで9000円くらい。

主演は3つともリュディガ・フォグラーという俳優らしいが他では見たことないけどいい味を出している。

今日紹介するもう1本はヘルツォークの「フィッツカラルド」
こちらは80年代の映画。主演はクラウス・キンスキー。共演はクラウディア・カルディナーレ。


フィッツカラルドのBlu-ray、おまけで付いている絵はがきがいい

クラウス・キンスキーはパリ・テキサスのナスターシャ・キンスキーのお父さん。私生活はかなり問題の人らしいが、この映画ではとてもよい。

舞台は南米ペルーのイキトスという実在の街。鉄道も道路もつながっていないので、文字通り陸の孤島。アマゾン川を船で行くか、今なら飛行機だ。この映画で描かれている19世紀末なら船しかない。

当時、ゴムの木によるゴム原材料の生産地として大いに発展した。映画はクラウス・キンスキー演じるフィッツカラルドがイキトスにオペラハウスを作ることを夢見て未開の地に船で向かう、という話。

今読んでいる、「オペラの20世紀」にも書かれていたが、19世紀末は毎年ヨーロッパのオペラシーズンが終わったあと、演奏者達が南米で興行するというのがよく行われていたらしい。


オペラの20世紀と塩キャラメルポリコーン。オペラ聞きながら本を読みながらポリポリ。

映画ではイキトスから2000キロ離れたマナウスにはオペラハウスがあり、そこでのカルーソー主演のヴェルディ「エルナーニ」の公演にフィッツカラルドと恋人のクラウディア・カルディナーレ演じるモリーが船でやってくるところから始まる。

ヴェルディのエルナーニというのは荒唐無稽なオペラの代表で、とにかくストーリー展開が無茶苦茶なオペラ。だがヴェルディはそれを承知で力まかせにグイグイ進んでいく。そしてそれこそがこの映画の展開を暗示しているようでおもしろい。

ちなみに現在はゴム生産は南米からマレーシアに移り、イキトスも当時のような活気はない。

この映画はすごい映画で、船で冒険するなんて単純な話ではなく、およそ想像もつかないようなことをフィッツカラルドは思いつき、実行する。そしてそれを長期ロケで撮影する。そのすべてはフィッツカラルドという男の、オペラ座を建てるという夢とその夢を実現させたいという情熱の映画化のために。

フィッツカラルドは、ヨーロッパ出身でこの冒険の前、アマゾンの横断鉄道に挑戦して破産している。まわりのヨーロッパ人はゴムで儲けた大金持ちで、飼っているアロワナに千ドル放り投げて喰わせたり、博打で大金スッて、それでもゲラゲラ笑って大喜び、という連中だ。

だが、金儲けだけに長けた連中より、破産しながらも夢に夢中のフィッツカラルドが実に良いのだ。そういう映画だ。

船に乗り合わせることになった、船長のパウルもいい、機関士のチョロ、料理人のウエレケケ、みなおもしろい。ネタバレはもったいないので結末は書かないが、素晴らしい映画だ。

こういう映画が好きだ。