2021年4月12日月曜日

アンナマグダレーナバッハの年代記




 1967年の映画、フランス人の監督が西ドイツとイタリアで制作した映画。DVDは日本語字幕入りが紀伊國屋書店から出ている。

映画は日本でも確か六本木のシネヴィヴァンで上映され、その時は表題の「年代記」ではなく、「アンナマグダレーナバッハの日記」という題だった。その時の冊子があるが確かに「日記」とある。

写真左:紀伊國屋から出ているDVD、右:ユーロスペース発行の冊子

 

表題だが、ドイツ語のChronik、英語のChronicleをどう訳すかだが、私は日本語の「年代記」がもつ大げさな雰囲気よりも、「日記」の方が映画の内容に即しているように思えるのだが、どうだろう。

 

モノクロで94分。音楽映画だが音声はモノラルで音質はよくない。映像はもっと酷い。だが、バッハの音楽が好きなら観て損はない。いや観ることをお勧めしたい、素晴らしい映画だ。

 

製作・監督・編集はダニエル・ユイレとジャン マリー・ストローブ、夫婦である。

出演はバッハにグスタフ・レオンハルト、ケーテン候レオポルトにニコラウス・アーノンクール、この二人は説明の必要がないくらい有名な音楽家だ。残念ながら二人とももう亡くなってしまったが。

二人に共通することは、ピリオド楽器による古楽演奏のパイオニアとして多くの録音を残していること。この二人が共同で行った録音にバッハのカンタータ全集がある。バッハはライプツィヒの聖トーマス教会の音楽指導者(カントル)だったときに、教会との契約で宗教行事ごとに新しいカンタータを書いていたので、毎週のミサに加えて大小の宗教行事ごとに作曲を行った。

カンタータ全250曲ほどのうち現存する200曲全集である、録音は一大事業と言えるだろう。

アンナマグダレーナ・バッハはクリスティアーネ・ラングという元音楽家、北オランダフィルの主任指揮者だったハンス・ドレヴァンツの奥さん。だが結婚後は本作への出演を除き引退していたらしい。

 

この映画について語る前にDVDについている28ページの小冊子と、このユーロスペースの136ページの冊子について触れておこう。

 





まずはDVD付録の小冊子だが、なかなか読み応えのある内容の濃いものだ。DVDを入手したら読むことをお勧めする。

キャストや演奏者や曲目に関する詳細情報と、日本人数名の寄稿のほか、製作者であるジャン マリー・ストローブのインタビュー記事があり、どれもなかなか良い。

特に、映画の中でその大半を占める演奏シーンについて、その場所や演奏の詳細が書かれているのがうれしい。残念ながら先の聖トーマス教会のオルガンは、現存するものはバッハの時代のものではなく、19世紀に大きなものに作り替えてしまい撮影には使えなかった。

従って映画の中では、別の教会のオルガンが使われているが、どこの教会で撮影されたかもこの冊子に書かれている。

 

この小冊子で最も読むべきは、ジャン マリー・ストローブのインタビュー記事だろう。なぜあそこまで地味なカメラワークなのか、なぜレオンハルトなのか、また映画の始めからバッハが亡くなるまで30年近い年月が経っているにもかかわらず、レオンハルト演ずるバッハの容姿がが全く変わらないのはなぜか、そうしたこの映画を観た人なら少なからず感じるであろう疑問に対する回答がこのインタビュー記事の中に書かれている。

 

次にユーロスペースの冊子本の方、こちらも読み応えのある冊子本だ。寄稿者は音楽研究家の他、ピアニストの高橋悠治や蓮実重彦の名まである。蓮見がバッハ?と興味津々である。

巻末にはシナリオと称し、映画のすべての画面の写真と画像、台詞が収録されている。

この映画では、台詞のほとんどは、アンナの回想で、自分の日記を誰かに読み聞かせているように進行する。それに合わせてバッハの演奏風景や教会でのできこと、自筆譜、さらにアンナ自身の演奏シーンなどで構成されている。

その流れをこのシナリオはすべての画像と台詞を掲載することで、映画とは異なった見方でこの作品を楽しむことができる。つまり川に船を浮かべ川下りをする映画的視点から、気球に乗って上空から川を見下ろす俯瞰的視点だ。当然ながら見える景色は異なってくる。

 

さて本題に入ろう。

レオンハルトが扮するバッハが年をとらないとか、なぜ容姿が似ていないレオンハルトが、というのは置いといて、この映画の特異なカメラワークについて話をしよう。そうすれば容姿に関する謎も自然に解けるからだ。

この映画では演奏するバッハは斜め後ろからカメラアングルで撮られたものが多い。蓮見はこれを後ろから眺めると言うことは「労働を意味する」、と解説し、高橋は「実際の演奏家が聞く音に近い位置」と解説している。このななめ後ろのアングルはこの映画においてとても重要なこだわりである。だが残念ながら蓮見、高橋の説明は正しく説明しているとは言えない。

まずは蓮見、これが労働であるなら、別のシーン、たとえばアンナがパルティータを演奏するシーンでも斜め後ろからなのはなぜか説明できない。足下では娘が人形で遊んでいる。どう見ても「斜め後ろ=労働」ではない。



キーボードパルティータを練習するアンナ




 

また、後半バッハがフリードリッヒ王の求めに応じ6声のフーガを作曲しながら演奏しているシーンは斜め後ろではなく真横からのアングルだ。






この6声のフーガは高度な作曲でまさにバッハは努力してフリードリッヒ王の期待に応えたわけで、額に汗しての作曲作業、正に「労働」だ。


逆に映画のはじめの方のアーノンクール演じるケーテン候レオポルトとの共演で愛らしい「ヴィオラ ダ ガンバとチェンバロのためのソナタ」を演奏するシーンではバッハが後ろ姿で、蓮見の言う「労働」だ。






だが、このソナタの演奏が「労働」で、6声のフーガの作曲、演奏が「労働ではない」というのはどう考えても納得がいかない。

 

高橋の「実際の演奏家が聞く音」は蓮見より少し説得力があるが、では音にこだわった映画なのか、と聞かれれば声もないだろう。斜め前と斜め後ろの音の違いを映像で表現する映画。説得力がない。そもそも「演奏者に聞こえている音と同じ音が今あなたにも聞こえていると想像してください」なんてあまりにも不自然だ。映像作家がそんなチープなお願いをオーディエンスにする訳がない。

 

ではどうしてか。この映画は、ノンフィクションではない。史実に基づき使用楽器や撮影場所など齟齬がないよう注意が払われている。だが完璧ではない。作者ストローブもそう考えていた。ストローブはこの映画を「この映画で、これがバッハだと言うつもりは必ずしもありません。この映画はむしろレオンハルト氏についての映画だと言うことができます。」と述べている。誤解されやすい言い方だが、つまりこの映画は、「バッハとバッハを演奏するに値する演奏家たちによる音楽と映像の新しい体験」なのだ。バッハの時代を感じると同時に、優れた演奏家の演奏風景に触れることができる、コンサートや伝記映画では体験できない世界がここにある。

 

この映画を観る人はアンナマグダレーナの目と心を通してバッハを現在最高のバッハ演奏者の演奏活動を眺めるというとてもユニークな状況を受け入れることになる。そのためのアンナの視点が斜め後ろなのだ。

この映画ではアンナは夫バッハと一言も会話をしない。アンナはいつも見守るだけだ。つまり、ある意味「オーディエンス」だ。

だが、そのまなざしは、尊敬と愛だ。尊敬と言うより畏敬に近い。バッハがアンナのために用意したパルティータを一心に練習するアンナ。手紙を書きながら読むバッハを見守るアンナを見れば「労働」や単に「愛」ではなく「畏敬と愛」であることがはっきりわかる。ストローブはアンナ役のクリスティアーネ・ラングを見たときに「一目惚れ」したらしいが、こういうシーンはその「一目惚れ」が結実したシーンと言えよう。

何もできずに見守る、のではなく、我々オーディエンスの音楽体験のために見守る視線として演出した、とも言えよう。

なぜなら、この映画を観るような人はこの映画のアンナ同様、バッハに「畏敬の念」を持ちバッハの作品を愛して止まないからだ。

 

蓮見はこの映画を暴力的と言っている。例によって小難しい言い方で煙に巻くが、要は「退屈で辛い映画だが我慢した者には見終わった時に自由の感覚が与えられる」みたいなことを書いている。これには笑ってしまった。小学生がじいちゃんに連れられてお寺に坊さんの説教でも聞きに行くようだ。

 

そうではない、楽しい楽しい「新しい音楽体験」の映画だ。

 

 

 

2021年4月11日日曜日

マイクロフォーサーズのISO高感度耐性(後編)




 前回、EM-1IIのLow Light ISO性能について実験を行ったが、RAW現像にはすべての画像でAdobePhotoshopCC2021プラグインAdobe CameraRAW13.2を用いた。

しかしOlympusには独自のRAW現像ソフト「Olympus Workspace」というのがある。Adobe CameraRAWの使い勝手が良かったのであまり使う機会がなかったのだが、今回実験の延長として、Olympus Workspaceでも一部のファイルでチェックしてみることにした。

Olympus Workspaceだが実に豊富な機能を有している。だが全部の機能をチェックするのは基本項目の使い勝手をチェックしてからだ。基本項目の調整で使いにくかったら、その先はよほどの理由がないかぎり進む意味がないからだ。
基本項目とは、ホワイトバランス補正、色かぶり補正、露出補正、そしてシャープネスやノイズ低減だ。

さっそく見ていこう
まずは露出補正だが、「+」や「-」のクリックで0.1EVづつ変化する。これは良い。プレビューは少々遅いが十分合格点だ。

次にカラーバランスだが、ここも同じように「+」や「-」のクリックで変化する。だが1づつだ。これは使いにくい。4000だったのを4100にするには100回クリックする必要がある。もちろんスライダーを使えばいいのだが、プレビューが遅くコツがいる。少し動かしたつもりがドッと変わることが多々あって使いにくい。Adobe CameraRAWでは「+」や「-」がなくスライダーを少し動かすと50づつ変化し、プレビューも早いので全くストレスがない。Adobe CameraRAWでは微調整はキーボードから数値を入れる方式だが、これがベストではないが決して使いにくくはない。
ここはAdobe CameraRAWの勝ちかな。

次にシャープネスやノイズ低減だ。ここもAdobe CameraRAWは何の問題もなく使い勝手も良い。プレビューも早い。
Olympus Workspaceの方はどうかというと、これがどうやってもカラーノイズ低減がオフにできない。スイッチやスライダーはゼロ、またはオフにしているのだが、確実にカラーノイズ低減をかけてくる。そもそもISO6400の画像にカラーノイズが全くない、なんてことはあり得ない。だがOlympus Workspaceでいくら設定を変えてもカラーノイズはほとんど出ないのだ。まるで「はじめからカラーノイズなんて全くありませんでしたよー」と言わんばかりだ。
仕方がない、そういう会社ポリシーと考えて、実験を続けることにした。でもね、味の素は入れないでね、と言って「わかりました」といいながらこっそり最低限は黙って入れて知らん顔する、というのはどうだろうかね。
まあいい、深く考えないで進めよう。

Olympus Workspaceは味の素なしができないので、Adobe CameraRAWの方で味の素を入れて同じくらいに合わせてその上で両者の「味」を比較するしかなさそうだ。これでは実験の意味は半減するが、他に選択肢はないし、一応やってみよう。





左がAdobe CameraRAW、右がOlympus Workspace。
これでも何回も何回もやり直してAdobe CameraRAWをOlympus Workspaceに近づける努力をしたのだが、微妙に合わない。まあ仕方がないか。それでも結果としてはAdobe CameraRAWの方が良好だ。Olympus Workspaceは微妙に画像のディテールが失われているように見える。
くどいようだが左のAdobe CameraRAWはOlympus Workspaceに合わせるため、かなりノイズ低減やカラーノイズ低減を入れている。
このかなり入れた状態がOlympus Workspaceの補正無しと同じなのだから呆れる。

ちなみにISO6400でカラーのイズ補正を切ると普通はこうなる。






条件は完全にそろえた訳ではないので参考程度だが、左がAdobe Camera RAWで右がSILKYPIX。これが普通だ。

 

Adobe Camera RAWで、カラーノイズ低減のデフォルトは40となっている。もちろん調整可能で「0」にできる。

だが、おそらくこのくらいのカラーノイズ低減はディテールが潰れるような品質劣化はおきないので、まあかけておいても問題ないでしょうということなのだろう。そしてOlympus Workspaceは、そのあたりを「0」基準にしている、わざわざカラーのイズの多い状態を選ぶ理由はないだろう、と。

だが、「0」でこれです、と言われると、本当に「0」ですか?、オリンパスの考える「0」です。みたいになって苦しいのは確かだ。

まあどうにせよ、使い勝手を考えると、Olympus Workspaceを使うメリットはあまりないように感じる。
もう一つ、私はフォーサーズがマイクロになる前から使っていたので、古いフォーサーズの撮影データもかなり多い。どうしたわけか旧フォーサーズのRAWデータをOlympus Workspaceで開くとカスタムホワイトバランスのスポイトツールが使えないのだ。グレー点指定では取れる。だがそれでは微調整ができない。
気になってオリンパスに問い合わせたところ、E-SYSTEM(つまり旧フォーサーズ)ではカスタムWBのスポイトツールは使えません、という回答だった。

あとはAdobe CameraRAWにない驚きの機能でもあれば別だがどうだろう。

 

最後にくどいようだが、オリンパスやオリンパスのカメラがダメとも、嫌いとも思っていない。使う楽しみがあり、どちらかというと好きだし、カメラ初心者には薦めたいとさえ思っている。今はちと微妙になったが。

だが、オリンパス自身の「フルサイズより画質的に優れている」なんて発言が出ると、「ふぅ..」どうでもよくなってしまい、もったいないなぁ、と思ったものだった。

 

 

2021年4月10日土曜日

マイクロフォーサーズのISO高感度耐性(前編)




今回ははEM1iiのLow Light ISO画質のチェックをしてみた。カメラ情報サイトなどでは評論家や写真家(と言っても写真よりレビュー記事が本業のような写真家)がいろいろ書いているが、残念ながらそのまま「そうですか」と受けとることはできない。例えばこのEM-1だがISO6400までは「普通に使える」みたいなことを書いてある。それなら1600なら余裕だろう、と思って撮影すると後でがっかりすることがある。

だが、もちろん6400でも使えるシーンはあるにはある。だが「普通に」とは言えない。
そこで少々シビアにどの程度ノイズが乗るか実験してみることにした。

実験にあたってはカメラ生成のJPEGは使わず、RAWデータをAdobe Camera RAWにて現像した。
カメラ生成のJPEGはプリセットされたノイズ低減がかかっており、正確に評価しにくい。
RAW現像では、ホワイトバランスと色かぶり補正のみで他は変更しなかった。特にこういうテストでは露出補正をすると全く意味がなくなる(正しい評価ができない)ので要注意だ。
ただし、ノイズリダクションやシャープネスの補正は「無し」が基本だが、Camera RAW「デフォルト」もついでに比較してみた。

Adobe Camera RAWのシャープネスやノイズ低減は「ディテール」というグループにあり、調整項目は「シャープネス」、「ノイズ低減」、「カラーノイズ低減」の3つ。
調整幅とデフォルト値は、シャープネスが0-150で40、ノイズ低減が0-100で0、カラーノイズ低減が0-100で25となっている。

本来、ノイズ量はISO感度によって大きく異なる、しかしAdobe Camera RAWでのデフォルト値はISO感度に関係なく一定となっている。つまりRAW現像でこの項目は必ず調整すべき項目といえる。

では、さっそく始めよう。実験に用いた撮影画像は以下の通り。






左側がISO200で右がISO6400。当たり前だが全体をこのサイズで見ても差はわからない。もちろん他のISO感度も同様に撮影した。ここではすべてを紹介することはできないが、200、400、800、1250、1600、2500、3200,4000、6400を三脚を用いて撮影した。f4.5固定でSSを変化させた。ちなみにSSはISO200で1秒、6400で1/30秒である。
部分拡大を見ていこう。比較したのは左下の石膏像。アリアドネだったかな。ローマのどこかの美術館にある彫刻。エーゲ海の美神。

まずはシャープネスやノイズリダクション無しの画像比較。






カラーノイズ低減を切るとISO1600で盛大にノイズが乗ってくる。がんばって800までかな。できれば640まで。

次にシャープネスやノイズリダクションをデフォルトでかけた場合。






カラーのイズ低減は効いているが、デフォルトのシャープネスでザラザラ感はむしろ悪くなっている。これだとISO640が限界だ。

つまり、カラーノイズ低減は行い、シャープネスはかけないと言うことか。面倒だな。

その後も条件を変えいろいろトライしてみた。
ISO200の状態を基準として比較した。結果的にはISO1600ではノイズ低減補正が50くらい必要になり、ディテールが失われるので現実的ではない。ISO800ではノイズ低減35でほぼ釣り合った。これが限界かな。という印象だ。

だがノイズ低減35は少しかけ過ぎなので、若干のノイズは許容しノイズ低減20〜25位でISO800あたりかなという結論だった。

次に元の写真をA2サイズでプリントすることを前提にその一部を切り出しプリントして確認した。






写真のプリントを前提にするならプリントのチェックも重要だ。A2サイズで検討したのはA2プリントで大丈夫ならあらゆるサイズでプリントしても問題なしと言るからだ。
プリントはEPSONのPX5002。我が家のプリンターだ。今回はテストなのでA2を何枚もプリントするのは不経済なのでお手軽に写真用紙絹目で2Lサイズを使ってA2サイズプリントと同じ条件になるよう一部を同じ大きさでプリントして評価した。
結果は800までは多少の差はあるが問題なく、1600で若干ノイズが目立ち始め、2500は少々辛いかな、というものだった。

今回のテスト、少々シビアすぎるかもしれないが、結論としてはプリントする条件で、
ISO感度は800までが理想で、1600までなら可、と覚えておくことにした。

最後に、普通はA2プリントなんてしない、ブログやSNS、せいぜい2Lプリントさ、という意見もあるだろう。だが、それならA2プリントには向きません、とはっきり言えばいい。このカメラはその程度ですよ、と。
絶対にそんなことはない。A2プリントにも十分対応できる実力を持っている。もちろんフルサイズに比べれば不利なのは事実だ。だがあらゆるシーンで勝負にならないわけではない。そこをムードでごまかさず強みを生かす使い方をすればよい。
そう思う。

2021年4月7日水曜日

ポップアート表現


 



 

ポップアートといえば誰でも知っているのがウォーホールとリキテンスタインだろう。美術に興味のない人でも名前くらいは聞いたことがあるはずだ。

 

モダンアートがその発生から辿ってきた道筋の延長線の、終点1つ前とも言える偶発生を主題にしたアート、そう、デクーニングやポロックのことを言っている、広義にはヨーロッパにおけるこうしたムーヴメントの引き金でもあったデビュッフェ(ベルナールビュッフェではない)らによるアンフォルメルも終点2つ前として考慮すべきであろう一連のアート。

ちなみに終着駅はラウシェンバーグの消されたデクーニングのドローイングだ。音楽におけるケージの4’33の美術版だ。

デビュッフェやポロックらの作品が持つ、ストイックなそしてアカデミックな姿勢に対するアンチテーゼとして戦後ヨーロッパで、そして60年代以降主にアメリカで大きく発展した芸術形態。それがポップアートだった。

 

だが、よく勘違いされていてWikipediaでもその解説が微妙なのだが、ポップアートというのは一般に、大衆的な題材を扱ったポップでキッチュなアートという風にとらえられている。それは間違いではないのだが、実はそう簡単なものでもない。

 

ポップでキッチュ、わかりやすく言うと「大衆的でくだらない取るに足りないもの」という意味だ。つまり関西お笑い芸人みたいなものだと言えよう。

だが、ウォーホルにしてもリキテンスタインにしても、その作品を見ると一定の気品が担保されており、下品さは微塵もない。もちろん全てとは言わないが。

 

だが、ポップアートは確かにポップでキッチュな題材を扱っている。マリリンモンローや毛沢東のありふれた(つまり誰もが知っている新聞に出ているような写真)、キャンベル、コカコーラ、新聞のアメコミ欄など、すべてポップでキッチュな材料だ。

 

つまり、題材はポップでキッチュだが表現方法はポップでもキッチュではないということだ。

表現方法がポップなら、テレビや雑誌を使うだろうし、キッチュでないことは前述の通りだ。

 

そして、このポップでキッチュな材料、題材をポップでもキッチュでもない手法でアート化したのがポップアートなら、その手法は一体何だったのか、それをもっと掘り下げて論じることがポップアートの正しい理解につながるのではなかろうか。

 

残念ながらポップアートは比較的短命で、アカデミック路線の逆襲とも言えるクリフトらのミニマルアートやらアースアートらに取って代わられ、サブカル系はつまらないヒッピー文化に取って代わられてしまったので。

 

だが、もちろんポップアートの作品価値が下がったわけではない。現美にあるリキテンスタインのヘアリボンの少女は6億円で購入し、一部から「漫画に6億!」などと揶揄されておったが、今ではその10倍以上の値がつく現代美術を代表する作品の1つと認められている。バンクシーのアートに1億払うような愚行とは訳が違うのだ。

 

で、そんなこと考えながら作ってみた作品。

ポップアートの表現手法の考察。

 

ただしこの手のアートにとって大変重要な要素があることを、この作品を作りながら学んだ。

モデルは相当レベルが高いことが要求されると言うことだ。試しに他のモデルの写真で試してもみたが、全くダメだった。このモデルは容姿は完璧だった。こうでないとダメなのだ。

つまり、モンローも毛沢東もキャンベルもコカコーラも同じだ。

もちろんモンローや毛沢東がすばらしい人たちという意味ではない。イコンとしての資質を持っているという意味だ。

だからアンジョリーナジョリーやキンペー、クノールやペプシでは成り立たない。

関西お笑いほど醜くはなくとも、かなり滑稽なものになる可能性が高い。

 

だから友人やガールフレンドにポップアートの題材になってもらおう、などとは考えない方がよい、相手を怒らせてしまうか、ひょっとしたら泣きだしてしまうかもしれないから。つまり顔を3階調程度の真っ黄色に塗り潰しても、吹き出してしまうような画像にならないことが求められるということ。

 

では、そろそろイメージの制作プロセスに移ろう。

 

まずは元になる写真の標準的な現像の写真。

色温度と若干の露出補正のみ、ごく普通のポートレート写真だ。





今回は色温度を意図的に変更し下のようにした。併せてコントラストなども微調整し、意図的に階調を下げた。





また、合成用にモノクロの画像も用意した。この白黒画像も意図的に階調を落とし、かつ肌の部分に階調があまり出ないよう、カラー写真のRチャンネルだけを白黒画像に変換している。





これを、さらにポスタリゼーションで階調を少なくし、下のようなイメージとした。





最後にトーンカーブで微調整を行った。





 

これを先の意図的に色温度を変更したカラー画像の1つ上のレイヤーにコピーし、レイヤ合成モードを比較明で不透明度をバランスを見ながら調整した。

次に服部分が緑色に変わってしまったので、服のみを選択し、調整レイヤで色補正をかけた。





 

最後にいろいろ微調整し完成。

作業時間は試行錯誤を含めて20分程度。あらかじめ方向が決まっているので、どうしようか、という悩みはない。

単に求める方向に向け調整をしていくだけなのであまり時間はかからない。

 

Photoshopでは持って行く画像の方向をあらかじめ持って作業するがとても重要だ。

素人は、とりあえずファイルを開き、フィルターやらスライダーやらをやみくもに変更したり、レイヤをコピーして階調反転して合成モードをあれこれ変えたりなどと、おもしろい絵ができないかなー、とやりたがるが、これはダメである。

たまたまうまくいくこともあるだろうが、再現性がなく、スキルが身につかないからだ。

 




完成

 

 

 

 

2021年4月4日日曜日

RAW現像とPhotoshopによる編集(追加編)




 最終回の今回は、Adobe Photoshopのぼかしフィルターを使って、写真にソフトフィルターをかけたような効果を与えてみる。その昔、フィルムカメラ全盛の頃はソフト効果をかけることができるレンズやフィルターがあったが今はもう見ない。Photoshopの後処理で手軽にソフト効果がかけられるようになったからだ。


だがなかなか効果的な使い方に関する説明がない。そこで今回は追加編としてソフトフィルターをかけたような効果について解説する。

まずは前回の画像、基本修正(レタッチ)が終わったところ。ここから始めよう。





この写真のレイヤーはこのようになっている



「背景」レイヤーの上に「色相・彩度1」がありワッペン(赤いボタンのワッペン)の彩度調整をしている。
その上の「明るさ・コントラスト1」で意図的な周辺減光を演出している。
それぞれ選択範囲のみに効果がかかるようになっているのがわかる(クイックマスク)。

ぼかしを加えるのは「背景」レイヤだが、この背景レイヤに直接ぼかしをかけても狙ったような効果は得られない。
単にボケてしまうだけだ。そこで、背景レイヤをコピーし、これにぼかしをかけ合成する。合成の仕方で元画像の芯を残した画像に柔らかなぼかしを追加する。
合成する追加レイヤーは2枚必要なので下図のように背景レイヤのコピーを2枚つくる。



どんな効果をかけたか、あとでわかるようにレイヤーの名称を変える。
20pixとは20ピクセルぼかしをかける、という意味。数値は写真によって異なる。
レイヤー名は作業が終わってから変えてもよい。



それぞれのレイヤーにフィルター>ぼかし>ガウスで20ピクセルのぼかしをかける。
すると下のようにかなりボケるが心配いらない。





コピーした2枚のレイヤに同じようにかける。下の「20pix乗算」の方は上のレイヤの表示を消し確認する。

次にそれぞれの追加レイヤーの合成モードと透明度を下のように変更する。



これで完了である。
ちなみに単純に元画像にぼかしをわずかにかけたものと今回の処理を各部で比較したのが下図だ。
左側が今回の処理、右が単純ぼかし3ピクセルだ。







単純ぼかしは、わずか3ピクセルだから、髪の毛は柔らかくなっていない。だがボタンはボケてしまって台無しだ。
芯を残して柔らかい効果を与えることが大切だ。




完成

これで今回のRAW現像からPhotoshopによる編集(レタッチ)までの一連の作業が完了した。あとは作業の終わった画像の解像度を必要に応じて変更し、保存する。解像度を変更する際は再サンプルしない。必ずオリジナルのピクセル数を維持する。再サンプルはブログやSNS、プリント時に必要に応じて、その都度行う。

最後にCamera RAWとPhotoshopでどこでCamera RAWからPhotoshopにデータを引き渡すかについて、私の考えを述べておこう。例えば現像そのものはCamera RAWにしかできないし、逆にPhotoshopにしかできない作業もある。
だが、部分的なゴミ取りや、部分的な画像補正などPhotoshopでなくともCameraRAWでできる作業もある。逆にPhotoshopに引き渡しからでも露光量やホワイトバランスなどCameraRAWでの作業と同じものがCameraRAWフィルターとして利用できる。

引き渡しのタイミングで重要なことは、2つある。

1つめは、ひとたびPhotoshopで細かな作業を始めたらもう1度CameraRAWで現像からやり直したり、CameraRAWフィルターは使わない方がよい。ということだ。
実はPhotoshopでの作業の80%以上は選択範囲を作ることに費やされる。今回の例で言えば赤いワッペン(ボタン)の選択範囲など、少なくとも数分かかる。だがスライダーでの調整は画像を丁寧に見ながら慎重にやっても数秒ですむ。
だから時間をかけて作った選択範囲を無駄にしないことが肝要だ。もちろん同一画像であれば選択範囲のコピーはできるが、いくつもあると面倒だ。
また、PhotoshopでのCameraRAWフィルターの使用は画像の劣化が大きいのであまり使わない方がよい。試しにかなりアンダー気味の写真をCameraRAWで露出補正をかけたものと、PhotoshopでCameraRAWフィルターで同じように補正したものをヒストグラムを表示して比較してみるとよくわかる。PhotoshopでのCameraRAWフィルターの方は階調の不連続(トーンジャンプ)が発生する。ヒストグラムがくし形になる。もちろんわずかな調整では問題ない。だがCameraRAWでできる限りやっておくことが望ましいと言える。

2つめ、Photoshopで複製レイヤーや調整レイヤーを使った作業はやり直しがしやすいという点だ。CameraRAWでは使えない機能だ。例えばワッペンの色補正は調整レイヤーで行っているので後から再調整が容易だ。キャンセルもできる。ソフト処理も同様だ。レイヤ表示を非表示にすればいつでもオリジナルのデータと見比べることもできる。

以上からCameraRAWでは、ホワイトバランス、色かぶり、シャープネスやノイズ除去メインに現像を行い、その後の作業はPhotoshopで行うのが望ましいと思っている。
 

2021年4月2日金曜日

RAW現像とPhotoshopによる編集(後編)




 前回に続き、RAW現像とPhotoshopによる編集について。

前回はAdobe PhotoshopからCamera Rawを呼んでRAW現像を行った。これはRAW画像をダブルクリックすれば自動的に開く。もし他のソフトが立ち上がるようなら、MACのFinderでどれでもいいのでRAWファイルを1つ選び、ファイル>情報を見る(⌘+i)を選ぶ。「このアプリケーションで開く」という項目があるので、「Adobe Photoshop」を選び「すべてを変更」をクリックする。これで以降は同じ拡張子のRAWファイルはすべてPhotoshop経由のAdobe Camera RAWで開くようになる。

RAW現像が終わったらCamera RAWのウィンドウの右下にある「開く」をクリックしPhotoshopに引き渡す。
ここまでは前回のおさらいと補足。

Photoshopに引き渡した画像がこれ。





ここから編集(レタッチ)を開始する。
主な修正点は下記の通り





①髪の毛の乱れの修正
②左右の瞳の明るさの調整
③ちいさなゴミ取り
④ボタンの位置の微調整
⑤ワッペンの色調整
⑥背景の調整

まず①の髪の毛の乱れ





①スポット修復ブラシツールを使う。
このツールはツールでなぞった部分のゴミや乱れなどを自動的に取り除いてくれる。画面上の赤い丸がブラシサイズだ。このツールで重要なのはちょうどよいブラシサイズを選ぶことだ。またどうしてもこのツールでは思ったようにならないこともある。そんな場合は昔からあるコピースタンプツール②を使う。こちらもまずブラシサイズを決め、次にコピー元となる部分をoptionクリックでクリックし、つぎにそれを貼り付ける部分をクリックまたはドラッグする。最初はうまくいかなくても何度か練習しているうちに使えるようになるだろう。アンドゥ(操作取り消し)で何度もトライするとよい。
また、このツールは貼り付ける際の濃度やブラシの輪郭のぼかしも調整可能だ。これは上部のオプションツールで設定できる。



左から2つめがブラシサイズで25はブラシの直径のピクセル。モードは「通常」でよい。不透明度と流量はコピースタンプツールでは原則100%+100%で良い。

調整済みの画像がこれ





あまり完璧にこだわると時間がかかり、またやりすぎて不自然になることも多いのでこの程度で十分だ。

次が②左右の瞳の明るさの調整だ。この写真は人工照明を使い、瞳の反射をきれいに見せようと調整したが左右同じように照明を調整するのは大変なので、だいたい良さそうなところでシャッターを切り、あとは後処理で微調整することにした。
なげなわツールで瞳の中のハートを選択する。ただし上部のオプションツールで「ぼかし1ピクセル」にしておく。





選択範囲が破線で表示される。ただしこの破線が編集で目障りな時は「⌘+h」で一時的に非表示にできる。デリケートな作業では便利な機能だ。
今回は下図のように明るさとコントラストを調整した。





この瞳調整はポートレートでも行うが気をつけたいのがあくまで微調整ということ。明るさとコントラストを上げると一見瞳がキラキラしてきれいに見える。だがよく見ると気持ちが悪い。そんなことにならないように。

次は③の小さなゴミ取り
これもスポット修復ブラシツールを使う。
ブラシサイズに気をつける。でかいブラシでボカン!とやらないこと。





小さなゴミ取りは等倍で表示し画面全体をチェックするが、肌の部分など目立つところを重点的にチェックする。
風景写真の場合は主に空や雲のところかな。

④ボタンの位置
上下のボタンの位置がずれているので下側のボタンを左に移動する。別にこのままでも良いのだが、作業の説明にちょうどよいのでやってみることにする。
こういう修正の場合は、スポット修復ブラシツールは使えない。またコピースタンプツールもうまくいかないことが多い。なげなわツールで下のボタン全体を選んで移動するしかない。ただし単純に移動すると、もとあった場所が背景色になってしまう。





これではだめだ。
移動ではなくオプションを押しながらコピーしてみよう





さきほどより良いがまだダメだ。
こういう場合は
選択範囲を右の服の部分を含めて少し広いエリアをコピーする。





コピーの後、不自然なところは、スポット修復ブラシツールなどで補修することを忘れずに。

さて次は⑤ワッペンの色変更。ちょっと目立つので少し控えめに彩度を落としてみよう。
ただし髪の毛がかかっているので今までと違ってワッペンだけを選択するのが難しい。
こういうときは色域指定で選択範囲を作ると便利だ。
でも単純に色域指定かけると、画像全体から同じような色を選ぶため瞳のハートも入ってしまう。そこで、なげなわツールであらかじめワッペンのあたりを選択し、このエリアに色域指定をかけ、絞り込み選択をする。

まず、なげなわツールでざっくりワッペン周りを選択する。





次にメニューバーの選択範囲から色域指定を選択する





ワッペンのオレンジ色の部分をスポイトで選択し、許容量スライダーで選択範囲の広さ(どの程度近い色を選択範囲とするか)を調整する。





OKをクリックして選択範囲を作る。
ただし1回の操作で必要なエリアをすべて選択範囲にできないこともある。そんな時は今作った選択範囲を一旦アルファチャンネルとして保存して、わずかに違うオレンジ色をスポイトで取り、今と同じ操作で新しい選択範囲ををつくり、先ほどの選択範囲に加える。
選択範囲のアルファチャンネルへの保存は、選択範囲を作ったらチャンネルのウィンドウで赤く囲ったアイコンをクリックすればよい。





アルファチャンネル1が追加された。
続いて先ほどと同じく色域指定のプロセスで少し違うオレンジ色を元に選択範囲を作る。
この選択範囲を解除しないように気をつけながら、先ほどのアルファチャンネル1をシフト+⌘+クリックで加える。
これでも足りなければアルファチャンネル2で保存してまた加えて、と操作を繰り返す。
このようにしてある程度選択範囲ができたら、この選択範囲を使ってレイヤマスク付きの調整レイヤを作って彩度を調整する。
せっかく作った選択範囲を解除しないよう気をつけながら、メニューからレイヤー>新規調整レイヤー>色相・彩度を選択する。





OKをクリックし色相・彩度のコントロールで彩度を-100にする。
するとワッペンがグレーに変化する。わかりやすいように-100にしたが、調整レイヤーはあとで変更が可能なので心配ない。
彩度のスライダーを-100にしてもまだボタンの縁がわずかにオレンジ色が残っている。
これは選択範囲が完全ではなかったようだ、ここは直接ブラシで選択範囲を編集する。
まずレイヤーウィンドウの調整レイヤーの右側、マスクをアクティブ(白い枠線が付く)にし、ブラシツール、ブラシはぼかしタイプ、不透明度50%程度でサイズを調整後、残ったオレンジの部分を丁寧に塗っていく。流量が50%なので必要に応じて同じ場所を何度か塗る。ただし髪の毛の部分など塗りすぎるとグレーになってしまうのでやり過ぎないように。





終わったら、彩度を-100から-30くらいに戻す。するとちょっと強すぎたワッペンのオレンジが、ほど良く落ち着いた色となる。





最後に⑤背景の調整として、今回は意図的にオールドレンズのような周辺光量を減らした雰囲気を作る。
周辺光量を落とすには2つの方法がある。1つは選択範囲を作って調整レイヤーで明度を落とす方法。
もう一つはCamera RAWにある周辺光量補正を使う方法だ。
Camera RAWの編集機能をフィルターとして使う方法は非常に簡単だが、一度かけてしまったら調整レイヤーのように後から変更できない。
今回は少し手間だが調整レイヤー+レイヤマスクの方法を使う。

まずは⌘+aで画像全体を選択範囲とする。次にメニューバー>選択範囲>選択範囲を変更>選択範囲を縮小を選ぶ。
画像の短編のピクセルサイズの1/10程度縮小する。さらにこの選択範囲を同じく選択範囲の変更から選択範囲のぼかしで先ほど縮小した数値の2倍程度ぼかす。
この選択範囲を反転し、新規調整レイヤーの明るさとコントラストで明るさを-75程度にする。
そうしてできあがったのがこのイメージ。





次回は「追加編」としてPhotoshopによるソフト処理を紹介する。