オリエント急行といえば確か74年頃だったか、豪華キャストで映画化された作品がすでにある。ケネス・ブラナー版2017年はいわばこの超有名な74年版のリメイクと言えよう。ちなみにケネス・ブラナーはイギリスの俳優だが、この映画はアメリカ映画だ。
この映画、娯楽映画としては実によくできているし、十分楽しめる内容になっている。だが、どうしたことか評価はまちまちだ。おそらくこの映画を評価しない人たちは、ここまで有名で結末もわかっているミステリーなんて今さらねぇ、という人たち、こういう人たちを「いまさら派」と呼ぶことにする。
この人達を切り捨てるのは簡単だ、じゃあ一体あんたはこの映画に何を期待していたわけ?と聞けばいい。もっと違う結末が〜などと答えるお間抜けさん以外は答えに窮するはずだ。
だが、実はそう単純でもないかも、と言えなくもないのである。
今日はそれを書こう。
まずはこの映画、始まってすぐの小さな事件の解決で、ブラナー演じるポワロを原作以上のスーパーマンにしている。
壁に刺したステッキとかね。
そしてそれだけではない、ポアロがいよいよオリエント急行に乗り込むシーンだ。ここではおそらくアメリカ映画では考えられないくらいの長回しで撮られている。
長回しというのはカット無し、ワンテイクで長い時間撮影することだ。
それがどうしたの?という人のために説明しておこう。
長回し、というのは実はそう簡単ではない。そして、いよいよというところで使われる。
わかりやすい例で言うと、韓国映画でヒットした「猟奇的な彼女」というのがあったのを覚えているだろうか。たぶん観たことある人も多いだろう。
低予算のあの映画で、実は1カ所だけ長回しで撮られたシーンがあるのをご存じだろうか。
映画の最後の方、男の子と別れて数年後、約束の場所でキューピッド役のおっちゃんからコトの真相を知らされて、何とかもう一度彼に会いたい女の子が、電話してもつながらない、メールもダメ。最後は地下鉄のホームで入ってくる電車に、ホームの先の方に立てば、はじめて出会った時みたいに彼が現れるかも、なんて淡い期待でやってみるが、我に返ってやめる。そしてその電車に乗りドアがしまる、ドアの外には、というシーン。このシーンが感動的なのは、そういう展開であることはもちろんだが、映像としての演出力がずば抜けて高いということも一因だ。そしてあのシーン、あれが長回しだ。カット無しのワンテイクだ。
そしてブラナーのオリエント急行のイスタンブールでの乗車シーン。おどろくべき長回しだ。アメリカ映画だってやる気になればできるんだぞ、といった感じだ。
はじめに原作を超越するスーパー探偵ぶりを発揮し、そのあとアメリカ映画史上最高の長回しまでやって、さあ、この先・・・
実は、こういう長回しなどは、観る人はそうと意識しなくても、ちゃんとそう観ている。料理の隠し味にも似ている。
結末はわかっているし、それを変えてもらっても困る。でもここまでこれだけのことをやって、この先何を見せてくれるのかな。と思うだろう。
だが、残念。列車が出発してから映画の最後まで、75年の映画とほとんど同じなのだ。だから大いに期待して画面に釘付けになっているみんなは、観終わって行き場のない欲求不満を「いまさら」と言ってみるのだ。
そういう映画。
さて、いいところといえばこの映画、ジョニー・デップがいい。わかりきった悪役をわかりきった悪役としてうまく演技している。こういうイヤーなやつの役のオファーを引き受けるだけでもいい俳優だ。ブラッド・ピットやモーガン・フリーマンみたいにいっつも馬鹿みたいにイイ役しか演じない俳優を私は全く評価しない。まあこの人達の出る映画なんてまず観ないから、そうでないのがあったら、すまん。
さてこの映画、Blu-rayも1000円くらいと安いし、買って観て損はないと思う。